−お知らせ−

このお話は史実に基づくものではなく、単なる妄想です。
一部に実在した人物・団体・物体・出来事・地名・思想・制度なども登場していますが、その行動や性格設定・実態・本質及び情景etcは、全て「でっちあげ」です。
又、内容も原作から大きく外れている場合も出てきます。
それを承知の上、多少のことは目をつぶり、遊び心で読んでみようという方のみ、下へお進み下さい。




-剣と誇り-



アランは自分がアンドレをパリで拾ってきた事もあってか、不思議と彼には心を許すようになってきていた。

衛兵隊の中でアランは兵士たちをまとめる立場上、これまで特定の誰かと特に親しくすることはなかった。

だがアンドレに対しては、他の者よりも好んで酒場に誘ったり、年若い部下の面倒を頼んだりと信頼を置いている。

彼は兵士たちの中にいつのまにかとけ込んでいるアンドレのことを不思議に感じつつ、その性格の素直さを見込んで、いつか妹の花婿にしたいとさえ思っている。


しかしアンドレの存在は兵士たちの間で思わぬ波紋を広げる事になっていた。

彼が貴族の主人にたてついたので、ジャルジェ家の屋敷を追い出されたという噂が流れ、オスカルの立場を悪くしていたのだ。



「お前、貴族の屋敷でずいぶんいじめられたそうだな。俺が仇を討ってやるからよ、安心しな」
ドニという兵士は気が短くて思慮も浅く、今にも何かをしでかしそうな男である。

彼は図体の大きいことが自慢で、人の話を聞くことが嫌いだ。
又、不必要に自分を過大評価しており、粗暴で高圧的な態度は隊の中でも嫌われている。

経歴も外国で傭兵として活躍したと吹聴しているが信憑性はない。


「いや、そんな事はない。ジャルジェ家の旦那様は良い方だし、お屋敷ではとても可愛がってもらっていたよ。仇なんてとんでもない」
アンドレはあっさりと否定した。

しかしいつのまにかそのようなうわさまで流れていようとは思いもしなかったので、多少気にかかる。


「…へえ、そうなのかい」
鼻息の荒いドニはアンドレに軽くかわされ、出鼻をくじかれてしまった。

だが、目障りな女隊長の鼻をあかしてやりたいという気持ちはくすぶったままだ。
彼は以前、女性がらみの問題を何度も起こしていた。たかが女、という思い上がりもある。


オスカルに対してもしょっちゅう尻を触ろうとし、その都度、彼女のひじ鉄を喰らっていた。

何よりも女の尻が大好きで、隊長が女かどうか確かめるためにしているだけだと言い張り、反省の色さえない。




**********




オスカルはある日の午後、ブイエ将軍に呼び出され、彼の私室に急いで出向いた。


将軍は大きな体で腕組みをし、窓辺に立っていた。

その様子は見た目にもどっしりと落ち着いており、丁寧になでつけた銀髪はいかにも威厳があるような印象を受ける。

色白の面持ちだが、彼が小言を言いはじめたらすぐに激高し、真っ赤になることをオスカルはよく知っている。

兵士たちが言う事を聞かず、力不足を指摘されるたびに「女に士官は務まらん」と大声で威圧されていた。


ブイエ将軍の真意は解っていた。
女に兵士をまとめる事などできるはずがない、という思いこみだ。
兵士も将軍も、男たちは皆、彼女の力をまず自分たちより劣ると決めつけていた。


かつて何をしても誉め讃えられていた近衛隊の頃と比べると、全く逆の扱いである。

だが、この逆境はオスカルを苦しめているとは言え、もっと力をつけて見返してやろうと奮起するための原動力になっていた。




「今日、君を呼んだのは他でもない、このような事態を見過ごすわけにはいかなくてな」
そう言って将軍は衛兵隊で支給されているサーベルやマスケット銃を、マホガニー製のテーブルの上に置いた。


「パリの武器商で売られていたらしい。調べてみるとこれは君の隊の兵士の持ち物ではないか。すぐに名前を調べてくれたまえ、軍紀違反で厳罰に処する」
彼は険しい顔で言った。


「ブイエ将軍、これは何かの間違いではないでしょうか。我が隊の兵士がこのような軽率な事をするとは思えません。隊に戻って調べますので少しお待ち下さい」
オスカルは即座に言い返した。


衛兵隊の銃器が、時々無くなるという話はダグー大佐から聞いて耳にしていた。

兵士の中には病気の家族や親の借金を抱えている者がいる。急に金が必要になる事態もままある。だが今まではたいていが一時的なもので、武器はいつのまにか兵士の元に戻っていた。

しかしそれが今回はブイエ将軍の手に渡ってしまったらしい。


こういう事があってはならないが、やむを得ない現実がある。
規律に厳しさは必要だが、兵士たちをゆるめず、又は締め付け過ぎずと言う調整は難しい。



「調べても出てくるのは言い訳だけではないのかな」
将軍は言い捨てた。




その後、対処を迫られて自室に戻ったオスカルの元に、新入りのアンドレがドニを相手にケンカを起こしたという報告が救護班の兵士から入った。

聞けば二人とも怪我をしているという。

一瞬、椅子から立ち上がりそうになる衝動を抑え、彼女はあわててやって来た兵士に向き直り、事の真相を確かめて現状を改めて報告するようにと命じた。

兵が急ぎ足で司令官室から出ていくと、一人きりになったオスカルは立ち上がり窓辺に寄った。



「ふう…」
彼女はひどく疲れを感じた。

衛兵隊に転属してからずっと、張り詰めていたのは自分でも分かっていた。

自分に対して、隙を見せるなもっとがんばれと言い聞かせて来たのだが、一日のほとんどを衛兵隊の任務に追われているせいか、公私の区切りが無く、全く気の休まる暇がない。
たとえ気持ちを奮い立たせても、体力には限界もある。いくらオスカルでも万能ではない。

しかし少しでも弱気になると、以前のようにアンドレがそばにいてくれた事を懐かしく思い出してしまう。
過去を懐かしみ、思い出に逃げ込む事はしたくなかった。



「アンドレを特別視する必要はない、彼は彼だ」
そう言い聞かせた。


それに彼女にとって早急に片づける問題はアンドレの事ではない。
直属の上司であるブイエ将軍から警告を受けている武器の管理についてだ。

すぐに調べたところ、剣の持ち主はフランソワという年若い兵士で、銃はメルキオールという真面目な兵士の持ち物だった。

無くしたという報告を聞いていたが、あからさまに武器商で売りさばかれたとあっては示しが付かない。

特にフランソワは転属してきたオスカルの事を当初から尊敬のまなざしで見つめていた兵士で、訓練も熱心だ。
メルキオールに至っては射撃の名手で、その彼が大切な銃をそうやすやすと手放すとは考えられない。

何よりそのような真面目な兵士たちが、支給された銃器を売りさばく不祥事を起こすこと事態、オスカルにはショックだ。



彼女はすぐに二人を呼ぶと、すでに厳罰の話が広まっているのか、彼らは青ざめた様子で司令官室に入ってきた。

オスカルが事情を聞くと、しどろもどろで理由を答える。


「夜の間に、な…なくなってしまって、自分たちで探すつもりでした…」
フランソワは消えるような声で武器を無くした経緯を説明し、メルキオールに至ってはじっと押し黙っている。

厳重に注意し、今後、同じ過ちはしないという誓約書を書かせたものの、彼らは思い詰めた表情ながらも反省の色は伺えない。


「わかっています、覚悟は出来ています」
と必死に繰り返すだけで、結局彼らの口から事情は何も聞き出せなかった。


彼らを下がらせ、何とかブイエ将軍に頼んで今回の処罰を回避しなければと考えているうちに、救護班の兵士が再びやってきて、アンドレとドニの一件を報告した。


二人は午後になって兵営の隅で言い合いになり、アンドレが突然怒りだしてドニに殴りかかったという。

元々、けんかっ早いドニの事である。ただでは済まない。
結果として共倒れになり、アンドレは肋骨にヒビが入り、ドニは口の中を切った。
アンドレは原因を決して言いだそうとはせず、ドニは「あいつは気が変だ」と悪態を付いている。

原因はともかく、オスカルはケンカを起こした二人に、治療を受けた後で反省の意味を込めて謹慎処分を言い渡した。

それでなくとも今日は紛失した武器の事で気を揉んでいる。
アンドレの事は気になったが、彼が余計な騒動を起こしていることを、むしろ彼女は苦々しく思った。

だがとにかく今はフランソワたちの処分のことが先決だ。



出かけようとすると今度はアランが血相を変えて司令官室にやってきた。
鋭い目つきは敵意に満ちている。


「あんたが二人を挙げたっていうのは本当かい」
兵営ではどうやらオスカルが悪者になっているらしい。


「今ここで議論している暇はない」
オスカルは急いでいた。


「フランソワとメルキオールにもしもの事があったら、あんたをただじゃおかねぇ」
アランは吐き捨てるように言った。

彼女はそんなアランを無視して立ち上がり、どんよりと曇った空の下、馬を走らせた。

兵営ではその様子をアランが厳しいまなざしで見送っていた。




**********




オスカルは再びブイエ将軍の元に行き、事の顛末を話した。


「申し訳ありません。詳しい事情を聞きましたが、兵士たちはサーベルを紛失したものの、事の重大さにあわててしまい、まず自力で探そうとしていたと申しています。夜間に賊が忍び込み、保管してあった武器を盗んだのでございましょう。なにぶん、国庫予算の削減で兵は不足気味です。昼夜を問わず、交代での警備も激務でございます故、このたびは何卒お許し下さい」
オスカルは神妙な面持ちで頭を下げた。しかし彼女の訴えは真実であった。

つい先日もブイエ将軍が直々に兵士の削減を命じたばかりだ。


「君が来てから兵士たちはたるんでいるのではないか、今まではこのような事はなかったぞ」
将軍の声が少し小さくなった。兵力の不足については彼も無関係とは言い切れないのだ。


「とにかく兵士の報告が遅れるとは、上官がしっかりしていないからに違いない。二度と起きないよう、厳重に注意しておくように」
と、最後には折れた。

しかし衛兵隊の武器の紛失がこのたびが初めてというのは事実ではない。時折、盗難は起きていた。
ただ、オスカルに緊張感を持たせるための誇張だ。


「はい。わかりました」
彼女はうなだれた。


「ところで今からパリの留守部隊に行くのだが、君の予定はどうなのだ。転属してからまだあちらの様子は知らなかったはずだが」
ブイエ将軍は思い出したように話を変えた。

この機会にオスカルにパリの留守部隊を見せようと言うのは決して上官としての気遣いではない。

父であるジャルジェ将軍からは、娘には厳しくして欲しいと聞いてはいたが、少なくとも王妃アントワネットと強い縁があるオスカルをそう簡単に処分する事ははばかられた。

パリの留守部隊は主に徴兵や新人教育に当たっていたので、この先オスカルが何か失態を起こせばここの閑職に追いやればいいと思ったのだ。


「大丈夫です。同行させていただきます」
怪我をしたというアンドレの事が一瞬、頭をよぎった。気にはなるが、私情をはさむわけにはいかない。

彼女は顔を上げ、凛とした声で答えた。




**********




夜になってアンドレは熱を出した。
ケンカで痛めた胸が苦しく、激痛に耐えながら深い息をした。


今日の午後ドニは、仲間が罪に問われたのはオスカルがブイエ将軍に、有る事無い事好き勝手に報告したからだと言い始めた。
兵士たちはそれを聞いてざわめき、すぐに怒りの声を上げはじめた。

アンドレはその場の異様な空気を感じて、余計なうわさが広がらないように、あわててドニを廊下へ引っ張り出したのだ。

だが彼は汚れた前歯をむき出して、顔をにやつかせながら「あの女、いっぺんやっちまおうぜ」と言った。

アンドレはどうしてもそれが許せなかったのだ。そして気が付いたら彼に飛びかかっていた。


アンドレが殴りかかるとドニは思いのほか身が軽く、あっさりとかわしてしまった。
そして反対に思い切り腹を蹴ってきた。

アンドレは何とかよけてかわしたものの、ドニの膝は彼の体を突き上げていた。
彼は胸を強打して意識がもうろうとしたが、それでもドニを倒さなければと捨て身で立ち上がり体当たりした。


すると運良く頭がドニのあごに激突し、彼は衝撃で背後の壁に後頭部をぶつけて口の中を切り、血を流して倒れ込んだ。

殺気だったアンドレは「二度と同じ事を言って見ろ、お前をぶち殺してやる」と、唸るように言い放ち、崩れ落ちた。
アランが駆け付けた時には、二人は薄暗い兵舎の廊下で倒れていたという。



ドニは思慮のない男だ。だからといって他人が自分の言いなりになるとは思ってはいない。
しかしオスカルに関わる事となれば話は別だ。

今も尚、ドニのにやついた顔が目に浮かぶと、殺意というどす黒い感情がアンドレの胸の中にわき上がってくる。
彼女のために身勝手な感情を高ぶらせてはいけないと思いつつ、相手を憎む気持ちは収まらない。

だがその気持ちは激情のせいなのか、それとも男の本能なのか自分にもわからない。


今夜、オスカルはブイエ将軍の所に行き、そのままパリに出かけて帰ってこないという話も耳にした。

兵士たちは口々に、上層部だけで旨い物を食ってるか、のんびり観劇しているかに決まっている、どうせ良い思いをするのは大貴族だけだと、彼女の悪口を言いあっていた。


特に彼らの話の中では、オスカルが今回の黒幕だといううわさが広まっている。
武器を売った者は重罪、下手をすると銃殺刑になるかも知れないとささやかれ、兵営は騒然とした空気に包まれていた。

彼女が国の大多数を占める平民と違い、あらゆる点で優遇されている大貴族である事、その偏見が今回の事件に関して彼らの怒りとなって爆発したのだ。

彼女が出て行った後、今日の夕刻あたりから隊のあちこちで、フランソワやメルキオールにもしもの事があったら隊長を袋だたきにしてやると、不満が噴出している。
アランに至ってはすっかり黙り込んでしまい、よほどオスカルに対して怒りを感じているらしい。


だが、アンドレには到底、それらの疑惑が事実とは信じられなかったのである。
オスカルの潔さはやがて兵士たちに理解されるに違いない。

全ては好転するに違いないと彼は心で祈った。




**********




翌日は兵士たちの面会日で、兵営の中には彼らの家族や恋人たちが訪れて活気づき、それぞれ楽しそうなひとときを過ごしていた。


オスカルは翌日、朝早くパリから駆け付けて帰ってきた。


馬を走らせながら昨日のことを思い起こし、様々な思いが彼女の頭を巡っていた。
兵士たちは個々に問題を抱えており、何かある都度、オスカルの手を煩わせる。
このような事は近衛隊ではあり得なかった。

中にはドニのように、不真面目で上官の言う事など聞きそうにない兵士すらいる。
だが、だからこそ色々な場面で自分がしっかりと対応していかなければと、自身をさらに奮い立たせようと思った。


一方の兵士たちは、帰ってきた彼女の姿を見るとしらけたような、または軽蔑したような視線を投げかけてはいたが、家族たちのいる手前、何かしら反抗的な行動をとることが出来ない。

懐に短剣を忍ばせたアランはオスカルを冷ややかに見つめたのだが、大切にしている妹が面会に行ており、そうそう怖い顔ばかりしていられない。


オスカルは異様な空気を感じたものの、今回の事についてフランソワとメルキオールを呼んで早く知らせなければと、冷たい視線を無視して足早に兵舎に向かった。



「あの…」
と、その時、不意に若い娘が駆け寄ってきた。

声をかけてきたのはフランソワの妹で、名はソレンヌだと言う。

将校に声をかけるには相当勇気が必要だと思われるが、緊張した面持ちで必死になって謝りはじめた。


「すっ、すみません。兄がとんでもなくご迷惑をおかけしてしまって、あの、全部私が悪いんです。兄さんにあんな事はしないでと言ったんですが」


聞けば、フランソワの一番下の弟が馬車にはねられたのだが、医者に診せるお金が無い。
それでなくとも家には借金があり、ソレンヌは自分が身を売れば何とかなると決意していたらしい。

しかし父が亡くなった後は長兄のフランソワが家族の面倒を見ており、家族を不幸には出来ず、仕方なくサーベルとブーツを売り飛ばしたのだという。


「あの、それとメルキオールさんなんですが、あの人、奥さんが病気なんです。お医者さんが高いお薬じゃなきゃ直らないとおっしゃって…」


「安心しなさい、今回の件で処分はない」
ちょっとした留守の間にずいぶん話が深刻になっていたらしい。

しかし処分なしというのはたまたま運がよかっただけで、ひとつ間違えば最悪の場合もあり得た。


「そうなんですか、良かった。前の隊長さんは失敗をした兵隊さんを守るどころか、迷いもなく処罰してしまったんです、だから…私…」
ソレンヌはほっとしたのか泣き出してしまった。

兄が重い罰を受ける前にオスカルに頼み込み、自分が身を投げ出そうと決意してやって来たのだ。


「そんなに思い詰めなくともよい、私は女だ。もし言い寄られていても困るだけだ」


「…はい…」
ソレンヌは言葉を詰まらせながら小さく答えた。


「フランソワにはきつく言っておこう、大事な妹を泣かせる真似はするなとな」
オスカルの諭すような言葉にとうとう彼女は両手で顔を覆い、ホッとしたのも手伝って人目もはばからず泣き出してしまった。




**********




「今回の件について幸いにも処分はないが、次に同じ事が起きると私も責任は持てぬ。事情は聞いたが、だからこそよく考えて行動してくれ。もし、君らが刑罰を受けて取り返しの付かない事になったらどうするのだ。残された家族は刑罰を受けた者以上に自分を責め、苦しむ事になる」


オスカルに呼び出されたフランソワたちは家族の事を言われると、たちまち涙ぐんだ。

だが、それを伝えなければならないオスカル自身も決して心が晴れる事はなかった。
このように暮らしにくい世の中を作り上げているのは貴族の暴利と権力者の無能に他ならない。

人民から税金を巻き上げ、搾取する側の人間であるオスカルの口から何を言っても説得力などあるはずがない。

ひとまず一件落着し、複雑な思いを胸に窓際に立ったオスカルの眼下には、窓越しに警備に向かうアランがいて、こちらに気がついてニヤリと笑いながら敬礼した。




翌日の任務の前にオスカルは兵士たちを集合させ、警備の指示の後、一言付け加えた。


「諸君らの持っている軍からの支給品は我が国の人民を守るためにある。それを安易に扱ったり失なったりする事は敵に背を向けるよりも恥ずべき行為なのだ。何より、諸君らが命に代えて守っている家族が一番悲しむのだという事を覚えておいてくれ」


オスカルの言いたい事がどれほど兵士に伝わったかはわかからない。
正論がきれい事である事は解りきっている。だが、それを言わなければいけない場面もある。

まして、軍隊というものが何のために存在しているのかという事について、表向きは諸外国に対抗するために必要であるのは間違いないのだが、別の見方をすれば、絶対的な王権を陰で支え、国内の民衆を押さえつけている力も又、彼らなのである。

決して軍隊が自国の民を弾圧する事があってはならないが、いざとなればその危険性が無いとは言い切れない。

オスカルは一瞬、背中に寒いものを感じていた。


ただ、兵士たちはフランソワとメルキオールが彼女の言葉添えで今回は助かったと聞いていたので、特に反抗的な態度を示す者はいなかった。

アランもいつも通りの涼しい顔に戻っており、やはり彼の態度は兵士に影響しているようだ。


決して、兵士たちとの溝が埋まったわけではない。

だが少なくともこの女隊長は、兵士を守る気概を持ち合わせているのだろうと、彼らは思い始めていたのである。




2006/5/10/




up2006/6/14/


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