−お知らせ−
このお話は史実に基づくものではなく、単なる妄想です。
一部に実在した人物・団体・物体・出来事・地名・思想・制度なども登場していますが、その行動や性格設定、本質及び情景は、「でっちあげ」です。
それを承知の上、多少のことは目をつぶり、遊び心で読んでみようという方のみ、下へお進み下さい。




-安らぎの離宮-



オスカルの少し年下にラ・ファイエット候爵という帯剣貴族がいる。

士官学校時代にも面識があり、その頃から目立つことが好きな少年だったと記憶している。


今は出世して竜騎兵隊に所属しているのだが、彼は血気盛んで早くから名声を得ようとしており、先頃、勃発したアメリカ独立戦争に志願して単身乗り込むつもりだという。


宮廷に伺候するようになってからも何度か舞踏会などで隣席したこともあり、話をしているとごく普通の青年で、とにかく気が先走っており、まだ腰が落ち着いていないようだとオスカルは見ていた。

もしくは腰を落ち着かせるのが苦手なタイプなのかも知れない。


ちょうど部下のジェローデルにも少し似ているが、妙に斜に構えていないだけラ・ファイエット候の方が純粋で、その分、様々な事情を考えずに理想論で動こうとする。

「これからの世界は自由思想が何より大事です。アメリカの援護をすることでフランスの名声はさらに高まることでしょう」
候はすでに気持ちがアメリカに行ってしまっているらしい。忙しく動く指先はいかにも心ここにあらずの様子だ。


「確かにイギリスの台頭を抑えるのは良いが、我が国の財政事情もある。参戦に先立って国庫の見直しも大事だろう」
と、言うオスカルの言葉も右の耳から左の耳へと抜けていったらしい。


そもそも資金がなければ戦は出来ない。
財務総監のテュルゴーが失脚してからは、スイス人の銀行家でネッケルという男が財務長官として抜擢されたのだが、今は独立戦争参戦に向けて資金をやりくりしているという。

又、テュルゴーの言うところの、参戦したところでさほど見返りはないという冷めた見方も頭に引っかかる。



結局、外国へ行くのには国王の許可が必要だったのだが、ラ・ファイエット候はそれすら待っておられず、勝手に自分の資産で船と部隊を仕立てて出かけてしまった。





「すぐそこに戦いがあるのにぐずぐずしてはおられません。さっそく行って参ります」
ラ・ファイエット候は意気揚々と船に乗り込んでいった。

こうもあっさりと未練を捨てて行動に出、理想を追いかける彼を同じ若者として応援したい気持ちとは別に、分別もなく国王の許可すら無視してまで彼を突き動かすものは何かと考えてみる。


それは時代の流れであり、国のために戦うという意識の芽生え、又はそれに相対しながらも個人の自由意志を持つという考え方の芽生えを感じないではいられない。

この機に、改めて自分にとって王室とは、と、自問するオスカルであった。


又、少なくとも話を聞いた縁もあって、ジャルジェ家からもオスカルの名で船旅の物資を幾分、援助することにした。



**********



さて、アントワネットとルイ十六世が本物の夫婦となってから半年ほどが過ぎていた。

元々、女性への執着が少ない王様のことである。
相変わらず早寝早起きをし、早朝から近くの森へ狩猟に出かけ、暇があれば鍛冶屋のガマンを師匠に仕立てて職人芸に磨きをかけている。


一方の夜更かし好きのアントワネットは、夫の早起きも職人の真似事も理解が出来ないし、どちらかと言えば嫌いである。

彼女も今まで気ままな夜遊びに気を紛らわせていたこともあり、七年間のすれ違い夫婦の状態がそう簡単に軌道修正できるものではない。



しかし多少は周囲をやきもきさせてはいるが、少なくともお世継ぎを産み出さなければと言うアントワネットの義務感もあってか、希望はすぐそこまで来ているかのようであった。


おかげで王の寝室で過ごす回数が増えるとアントワネットの夜通しの遊びは減り、少なくとも今以上の批判を浴びることはなくなっていた。

アントワネットの故国オーストリアからも、この機会をくれぐれも無駄にしないようにと期待を込めて頻繁に母から手紙が舞い込んでくる。


夜遊びとはまた違う疲れ方をし、寝不足気味の王妃が宮殿を歩く姿を見て「処女とは歩き方が違う」とか「やはり女というものは尻に敷かれるより、上に乗るものですなぁ」と、貴族たちが冗談交じりの色気話をしているのを横目に、オスカルは国王さえアントワネットをしっかりと受け止めていれば、事は全てうまく行くのではないのかとつくづく思う。



色々と気をもんだが、しばし王妃の行動がおとなしいと、オスカルにも平和な時間が訪れることになる。
長い間、王妃が妻としての喜びを与えられずに過ごしたことは、さぞかし苦痛だったのだろうとも振り返る。


オスカルとしては若い男女が夫婦として暮らすことについてさほど自分自身に興味がないせいか、人々の下世話な話には耳を貸さず、単に王室にとって良い傾向だと喜んでいた。

まして夜の営みをなどというものを、未経験の彼女に理解せよと言うほうが無駄である。


ジャルジェ家ではばあやがいつも同い年の王妃とオスカルとを比較して、女として育っていたらオスカル様もあのように美しいお姫様となり、今頃は玉のような子供を授かっていたに違いないのにとこぼしている。


だが、アンドレはこの比較的平和な状態に胸をなで下ろしていた。

そうでなければアントワネットに群がる貴族に対して、オスカルがどこで誰に対して厳しい発言をしているかも知れず、再び謹慎処分にならないかと気が気ではない。
ジャルジェ将軍に殴られるぐらいはどうでもいいが、とにかくオスカルの身が心配だ。



つい先日もポリニャック夫人に「良い親戚や良人をお持ちですなぁ」と、コネで役職に就いた役立たずな彼女の一族を皮肉っていたばかりだ。

よくあれで敵を作らないものだと彼も感心するが、あからさまな批判ではないので相手も下手に言い返せないらしい。




まずオスカルも愚か者ではない。宮廷内の対人関係やアントワネットとの距離の取り方は色々と考えている。

慇懃な態度で皮肉ってはいるが、決して不要に無礼なことは言わず、特に貴婦人相手には騎士であることを心得ている。

見た目の美しさだけではなく、社交界での振る舞い方も子供の頃から身につけていたせいか、オスカルと親しく会話をするだけでも貴婦人としての自慢話になっていた。


今では少年のようなあどけなさが無くなってきた彼女は美しい将校として高嶺の花のように語られており、オスカルと口をきくだけで貴婦人たちは舞い上がり、彼女と少しでも会話ができようものなら、少女のように騒ぎ、互いに嫉妬しあった。


少なからずこれはアントワネットにとっても同じである。

王妃にだけは深くひざまずき、忠誠心ある態度を見せるオスカルには大変満足している。





すでに長いつきあいになるが、オスカルにとってアントワネットとのつきあい方には色々と悩んだ時期もあった。

なにぶん、下手に進言してもアントワネットにとっては逆効果になりかねない。

この間は身分も違うのに大それた事をしてしまったと改めて感じると共に、今はアントワネットを少し離れた目線で見つめようと思うのであった。


そんな考え方が出来たのも、一ヶ月の間謹慎し、離れたところから自分の立場を見つめ直したからに他ならない。

特に今までは王妃のそばにいて、自分の理想の女王像を彼女に求めていた部分がある。

自分の考えるように振る舞って欲しいと思っている間は不満もあったが、当然、アントワネットにも言い分もある。
アントワネットを縛り付けるつもりはなかったはずなのだが、その実、アントワネットに自分の考えを押しつけていたらしい。



誰でも自分の考えを相手に知って欲しいと思う。


結局は進言することで、自分の主張を知って欲しかったのが一番で、王妃の気持ちを思いやることが後手に回っていたのかも知れない。

自分に抜けていたのは、人は自分の思うままに道を歩んでおり、他の誰の勝手にもならないという考え方であった。



相手を認めることで自然とアントワネットへの優しい気持ちが出てくる。



そうすると、アントワネットも王妃になってからは、これまで以上に孤独な立場になり、誰にも言えない悩みを一人で抱えていたのではないだろうかとさえ思えてくる。


長い間、フランスとは敵国にあったオーストリアから嫁いできてからこっち、だれが彼女の心のよりどころになっていたのだろうか。
オスカル自身もフランス人なのだ。アントワネットの気持ちを察していたとは言え、我が身のこととして置き換えるのは難しい。

あのフェルゼンに心を開いたのも、異国に来た者同士で分かり合えるところが有ったのだろう。
まして夫である国王が七年もの間、彼女を悩ませ続けた上、強い力で導くことが出来なかった。


ポリニャック夫人が寵愛を一身に受けているのも王妃の寂しさから来たのだとすれば、オスカルは王妃を今まで本当に理解していたのだろうかと反省心も出てくる。




それに当のポリニャック夫人にしても、これほどに王妃から偏った寵愛を受けると、今はもう、この状態を持続させようとやっきになっているかも知れぬ。

時々、夫人のもくろみで失脚していった善意の貴婦人たちの事を考えれば、夫人にとって他人は全て、自分を蹴落とそうとする敵に見えてしまう…疑心暗鬼ということもあり得る。
それを思えば、身に過ぎた寵愛も考え物である。


オスカルもよもや本人に聞いたわけではないが、あれもあれで気を遣い、寿命が縮まるものではないかと思えてくる。

ただ、相変わらずオスカルとポリニャック夫人とはお互い話す話題もなく、ろくに口もきかない状態が続いていたので真意のほどはわからない。



そして彼女自身も、主君と家臣の関係を今一度、しっかりふまえておくことも大事だ、と気持ちを引き締めていた。


一ヶ月の謹慎の日々は一人で考える余裕をオスカルに与えていた。





**********





今もプチ・トリアノンに行くアントワネットの護衛は出来る限りオスカルが引き受けている。そうでなくても近衛兵の誰かがオスカルの命令で護衛する。

たいていは馬車だが、王妃の気が向けば風にまかせて時には徒歩で行くときもある。


プチ・トリアノンはルイ十五世が作らせた小さな離宮だが、今はルイ十六世からアントワネットが譲り受け、彼女の趣味に合わせて改装を進めている。

ベルサイユ宮殿と違い、この離宮は私的な空間ではあるが、実はここに出入りするにはアントワネットの許可がいる。

又、王妃が独自に作った私設の兵隊が館の廻りを警護し、外部の者を寄せ付けない。
よってプチ・トリアノンに出入りを許されていない貴族は当然、いい気はしていない。


ここでアントワネットは画家に肖像画を描かせたり、貴婦人たちとの気の張らない演奏会やおしゃべりに花を咲かせている。

時にはゆったりとした部屋着を着てくつろいだり、気ままに過ごす。


王妃は堅苦しい宮廷のしきたりから逃げ出し、子供時代を過ごしたシェーンブルンのようなのびのびした空間をこの離宮に作ろうとしていたのである。

もし彼女をかばうなら、賭博でさえ故国では誰にはばかることなく楽しんでいたので、つぎ込んだ金額はともかくとして、行為自体に罪悪感はあまりなかった。


…いずれにしても、故国の母からオーストリアの習慣をフランス宮廷に持ち込むなと口やかましく言われていたにもかかわらず、なのだが。





オスカルはプチ・トリアノンの中に入ることを許された一人なのだが、彼女は護衛が第一だと言ってなかなか中で遊んで帰ろうとはしない。

だが一度だけ、内装を作り替えたときだけは興味を持って見学に入ったことがある。

アンドレも又、大工仕事に興味があるので許しを得て一緒について行った。
たとえば一階から二階へと持ち上がる食卓テーブルや、私室の窓を覆い隠すための移動鏡など、珍しいからくりも仕掛けてあり、ちょっとした木工好きの男性にも見応えがある。



国家の体面を具現化したような豪華絢爛なベルサイユ宮殿とは全く違い、こじんまりした離宮の中は、洗練された調度品が品良く並び、目に優しい色合いで統一されている。

家具類も端正な中に女性らしい繊細なデザインが施してあり、部屋のあちこちにアントワネット自らが選んだ椅子が、ちょうど語り合うのに都合の良い落ち着いた場所にしつらえてあった。
ソファの張り地もカーテンも豪華な織り物で、落ち着いた色合いでそろえてある。

白い大理石の暖炉ももう少し手を入れて装飾を施そうかと悩んでいると、王妃は楽しそうだ。


まれに夫・ルイ十六世もやってくるが、たいくつな会話にあきあきしたアントワネットが適当に丸め込んで追い出してしまう。


全てにおいてここでは王妃が主権者であり、全ての中心であった。



オスカルのアントワネットへの態度が変わったのを受けて、アンドレも又少し、彼女に対する見方が変わっていった。

彼女を一人の女性として見ていると、アントワネットは非常に愛くるしくはつらつとしている。

尚かつ、市民の台頭の前に宮廷の危うげな権威が反映されてか、プチ・トリアノンのしつらえはどこか落ち着いた中にもはかなさが漂っていた。

あれもこれもと自慢の家具や壺を紹介するアントワネットに「王后陛下の優しいお心が家具に写っているようでございますね、大変心が落ち着きます」とアンドレもいつになく言葉がすらすらと出てくる。

特にお世辞ではなく、本当にそう思えたからだ。



「まぁ、わかって頂けてとても嬉しいですわ、アンドレ。あなたもいつでもこちらへいらして下さって構わないのですよ。今度、皆さんと一緒にお芝居をしようと申しておりますの。是非、登場して下さらないかしら。良い役を回しますわ」

アントワネットは先日整備したばかりの屋外劇場で早くお芝居ごっこをしたくて仕方がない。どうやら黒髪の青年は宮廷の中でも目立つのか、王妃は前から狙っていたらしい。


「あ、あの、お芝居は観るのは得意でございますが、私としては役者になるには才能も度胸も足りませぬ」
と、アンドレもあわてふためく。


「王妃様、アンドレは大根役者でごさいます故、せっかくのお芝居が台無しになってしまいましょうぞ」
オスカルはひとしりきアンドレが冷や汗をかいた後で助け船を出す。




一同はしばらく離宮内を談笑しながら見て回った後、ポリニャック夫人はそろそろ潮時とばかりに王妃にお茶会を始めようと切り出し、おしゃべり嫌いのオスカルたちを追い払いにかかった。


張り合うわけではないがポリニャック夫人はオスカルとの間に一種異様な空気があり、何とはなく気まずいものがある。おかげで夫人は一同の話しに入りそびれ、手持ちぶさたになっていたのだ。

時々、口をはさもうとしていたが、悪意のないアンドレの講釈にはばまれ、何度かふくれっつらすらしていた。



「ではジャルジェ少佐、後は私たちが王妃様をベルサイユ宮殿にお送り致しますわ」
ポリニャック夫人は早くオスカルを追い出したいらしい。


「今日は夕方から雨が降ると、天気にうるさい我が家の御者が申しておりました。又、後ほど私が良い頃合いを見計らってお迎えに上がります」
オスカルも今日ばかりは王妃をエスコートしようと反論する。


今日はじめて口をきく二人はさっそくそりが合わない。


「オスカル、構いませんよ。こちらには馬車も用意しています。私は夕方までにポリニャック夫人と宮殿に戻ります」


アントワネットの一言でオスカルはすんなり引き下がった。こう言うときは王妃の勝手に任せるのが一番良い。

天気が気になるが、それはそれ、注意深く見ておこう。





**********





宮殿に戻るオスカルとアンドレはポリニャック夫人のふくれっつらの事で笑いあっていた。

ああ見えて子供っぽいところがあるんだなと、普段はキツネのようにずるがしこいイメージの夫人にちょっと人間くさいところも見受けられて、おかしかったのだ。



その後、夕刻まではジェローデル大尉から近衛隊に新たに入ってきた兵士たちのことで相談を受け、彼らの経歴や紹介状に目を通して配属を決定したり、中隊の訓練を見回って過ごした。


最近では大隊を率いているせいか、兵士一人一人を相手に、直接訓練を行うことも少なくなってきている。

これも軍の編成上、仕方ないとはわかっているが、時折、直に兵士の任命にかかわると懐かしい気持ちがよみがえってくる。


そろそろ日が暮れかけ、西の空に夕焼けならぬ怪しい黒雲が覆い始めた頃、オスカルは訓練をジェローデルにまかせ、不意に気になってプチ・トリアノンに馬車で向かった。





離宮へは徒歩で20分ほどの距離だが、出かけてすぐに雨が降り始め、あっという間に土砂降りになってきた。

案の定、護衛も付けず自分たちだけで気ままに徒歩で帰ろうとしていたアントワネットたちはたちまち雨に遭い、木立にかろうじて身を寄せている。


「王妃様!」


オスカルは大きく声を掛け、アントワネットたちに手を振った。

急いでいたので小さな馬車で来たことが悔やまれるが、ドアを開けたとたん駆け寄ってくる王妃やポリニャック夫人たちに手を差し延べ、すかさず馬車に引き上げていく。

座席はすぐにいっぱいになったので、自らは降りて残りのご婦人方に席を譲り、御者にちゃんとお送りするよう言いつけて先に行かせた。



こうなれば厩に行ったアンドレに前もって手配すれば良かったとも思うが、急いでいたので間に合わない。

どうせ濡れてしまったのだから今さら慌てても無駄だと覚悟する。


気を利かせてアンドレが早々に駆け付けてみると、オスカルは雨をしたたらせながら悠然と歩いていた。


白い額に前髪がへばりつき、濡れた長いまつげが何とも物憂げに見える。
雨に濡れると彼女の女っぷりが上がって、雨の冷気ではないがアンドレは思わずゾクッとした。





秋の雨は冷たい。


大したことではないと放置していたらオスカルは珍しく風邪を引き、数日寝込んだ。
少し前に父がたちの悪い風邪を引いていたのでそれをもらったらしい。



それでも本人は宮殿に伺候すると起きあがって来たのだが、ジャルジェ夫人から王妃様は大切な体なので差し控えるようにと言われ、おとなしく引き下がった。


こう言うときは同じ女性として少し気を回しなさいという母からのさりげない忠告である。
父のような怒号ではないが、諭すような母の言葉は、オスカルに大事なものを気付かせてくれる。

その都度、私もまだまだ子供だと我を知り、母には頭が上がらないとつくづく思う。




アントワネットからはいたわりの言葉と見舞いの品がすぐに届いた。

いつもながら主君の心配りを有り難いと思い、王妃の人柄に感謝するのだが、久しぶりに弱って寝込んでみると何でもない一言が身にしみる。


熱が出て感情が高ぶったのもあるが、「是非お体を大切になさって下さい。あなたは私の大事な方なのですから」という王妃からの伝言を聞き、オスカルの頬には熱い涙が伝い落ちていた。





雨を予測せず、王妃に歩いて帰ることを提案したポリニャック夫人は少し謙虚になっていた。

オスカルの代わりに宮廷に参上し、礼を述べたジャルジェ夫人に対し、ポリニャック夫人は「早い全快をお祈りします」とわざわざ言葉を添えた。




雨降って地固まるというが、人というものはよほどの事がない限り、反目する仲にも通う(かよう)情がある。



又、もはや雨で固まるほど王家の地盤は堅牢ではないが、今、着実にアントワネットの体の中では大きな変化が起きようとしていた。                        



2005/5/27/





up2005/6/9/



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