−アンドレの逆襲−




身寄りをなくしたアンドレは祖母の働く、貴族のお屋敷に引き取られることになった。
そこには家の跡取りとして育てられた男まさりのオスカルというお姫様がいて、彼は毎日いぢめられていたのである。


跡取りなら武術も知恵も根性も鍛えなくてはならないと、スパルタ教育の父・ジャルジェ将軍に毎日しごかれていたオスカルは、反動でアンドレを泣かしてストレスを発散させていた。




「お〜ま〜え〜は〜アホ〜か〜!?」
「や〜い!や〜い!泣き虫アンドレ〜〜」
オスカルは今日もおしりペンペンしながら広い屋敷の廊下の先で叫んでいた。


「ちっっくっしょ〜〜!」
アンドレは怒って、いつもおちょくられているオスカルを追いかけようと駆けだした。



どっす〜ん!



「ぎゃゃぁぁ〜〜〜っっ、アンタ何すんのよっ!」
ちょうど通りかかった洗濯係の召使いに激突し、洗ったばかりの洗濯物を床にぶちまけてしまったのだ。




哀れ、アンドレは祖母であるばあやからしこたま怒られ、はるか向こうでケケケと笑うオスカルを恨めしそうに見つめながら、罰として水の入ったバケツを持って廊下に立たされたのであった。




くっそぉ〜!いつかヒーヒー言わせてやる……!!
アンドレは悔し涙を流した。





ある日、アンドレは森を抜けた先の村に届け物をするように言いつかって出かけることになった。
暇をもてあましていたオスカルは付いていくと言い出し、アンドレはイヤな予感を感じつつ仕方なく二人で行くことになった。


今にも雪が降り出しそうな重い空が広がっていたので、寄り道をしないように、くれぐれも大事なお嬢様の安全に気をつけるよう、ばあやからも念を押されている。
どのみち往復一時間もかからないだろう。アンドレは少し早足で行くつもりだった。




「なぁ、しりとりしよう」
オスカルはアンドレの意に反してぶらぶら歩きながら時間つぶしに言った。
ちっゃかり出かけることで勉強の時間をさぼれた彼女は上機嫌だ。
おかげでこっちは余計な責任が一つ増えたのにと恨めしそうなアンドレの事などお構いなしである。



「りんご」
オスカルがはじめる。
「……ごま」
「薪」
「………教会」
「いのしし」
「………しか」
「カミソリ」



詰まりがちなアンドレに比べてオスカルはすらすらと言い返した。
どうも言語の遊びに関しては女性のオスカルの方が得意らしい。
典型的な男脳のアンドレにはこのようなまどろっこしい遊びは、遊びではなくストレスの元だ。


「……リボン……」
アンドレはついNGワードを口走った。

「……の騎士」
と言ったところで手遅れだった。



「あっ、アンドレの負けだ〜!」
オスカルは手を叩いて喜んでいる。
「罰ゲームでアンドレは目隠し歩きだ」

そんな罰、いつ決めたんだよとつぶやくアンドレの顔に彼女は布きれを巻き、あっという間に目隠しした。



「仕方ないな、じゃあ行く方向を教えてくれよな」
ヨタヨタと歩くアンドレにオスカルは適当に右だ左だと声を掛ける。



そうこうするうちに凍った湖に出た。
オスカルはそんなに悪気はなかったのだが、ものは試しにアンドレの背中を押してみた。


「おいっ、何すんだよ」
と、言いつつアンドレは押されるままにヨロけて凍った湖に足を踏み出した。
キーンと凍った氷は滑りがいい。



「あ゛〜〜〜〜〜っ!」
アンドレは氷に着地したとたん、大の字に足を広げた状態で凍った湖の上を滑っていった。
少し傾斜が付いているのか止まらない。


目隠しが取れ、彼ははじめて自分が氷の上を猛スピードですべっていることに気が付いた。
「一体、どうなってるんだぁ〜っ!?」
彼はあわてて体のバランスを取り、何とか安定した姿勢を取った。




しかし慣れてみると氷の上を滑ることはすばらしく気持ちがいい。
彼はついつい片足を後ろに高く上げ、くるんと輪を描いて廻ってみた。



キマった!



「楽しいっ!」
次はスピードを上げてジャ〜〜ンプ!

見事な四回転も決まった。

次は連続三回転半ジャンプだ。
これもまた着地まで見事に決まり、アンドレは両手を高く上げてポーズを取った。


BGMはボレロにしてくれ!!

アンドレは自分に酔った。




「アンドレ………」
ちょっと困らせてやろうと思ったのに、反対に楽しみを見つけるとは。
逆境に強いタイプなんだなと彼女は少し彼を見直した。



だが、お楽しみはそこまでである。
調子に乗りすぎたアンドレは湖の中央で立ち枯れていた古木に激突し失神した。
その後は近くの村人たちに助けられ、屋敷へ送り届けてもらったのである。

目が覚めてからアンドレがばあやに激しく叱られたのは言うまでもない。





あれもこれもみんなオスカルのせいじゃないかとアンドレは思ったが、そんなことはお世話になっているご主人の娘だけに口に出すことすら出来ない。



くっそぉ〜!絶対、絶対!いつかヒーヒー言わせてやる……!!
アンドレは再び悔し涙を流した。



実は彼の悲願は後日ちゃんとかなって、オスカルを夜な夜なヒーヒー言わすことになるのだが、それはまだ20年以上先のことである。


まあ、それって…ちょっとばかし「ヒーヒー」の意味が違うのではあるのだが。

まあいいっか。



おわり
2005/1/23/



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