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このお話は史実に基づくものではなく、単なる妄想です。
一部に実在した人物・団体・物体・出来事・地名・思想・制度なども登場していますが、その行動や性格設定・実態・本質及び情景etcは、全て「でっちあげ」です。
又、内容も原作から大きく外れている場合も大いにあり、予測なしにオリジナルキャラクターも登場します。
まれに、現在は控えるべき表現も出てきますが、あくまで場面を描写するためにやむなく使用しています。
気になる誤字脱字誤用も当然、存在します。

それを承知の上、多少のことは目をつぶり、遊び心で読んでみようという方のみ、下へお進み下さい。





-カエルの呪い-




時は1789年、フランスでは三部会が開かれていた。

オスカルやアンドレ、衛兵隊の兵士たちによる議場警護は激務を極めた。
時には雨が一日中降り止まず、ずぶぬれになることもある。

だが、アンドレは雨に濡れたオスカルがとても女らしく見えるので、それはそれでまぁいいかと喜んでいた。


今日も大雨が降っており、オスカルは夏風邪を引いたと言いつつ、少し熱っぽい目で議場の周囲を見回っている。



「本当に濡れたオスカルはいつも以上にきれいだ…」

アンドレはいつものようについ彼女に見とれ、脇見をしながら歩いていた。


ムギューッ!


と、その時、アンドレは何やら柔らかいものを踏みつけた。

あわてて足もとを見ると、茶色くて大きなヒキガエルだ。
カエルは人間に思いっきり踏みつけられ、瀕死の状態でヒクヒクと引きつっている。


「ああっ、ゴメン、ゴメン。わざとじゃないんだ」

人の良いアンドレは頭をかきかき、ひきがえるに謝った。


するとひきがえるはアンドレをギロリとにらみ返し、いきなり口からドロドロと茶色い煙を吹き出した。

そしてみるみる全身が煙に包まれたかと思うと、ボンッと音を立てて大きなヒキガエル男に変身した。



「何するんじゃ、ゴラァ。痛いやないかいっ。ワシはカエルの神様じゃ。この国にものすごいことが起き始めたからヒキガエルに化けて見にきとったんやんけ。そやのにアホほど踏んづけよってからに、この人間めが」

カエル男はいきなり怒り出した。


「わーっゴネン、だから…よっ、よっ、よそ見していたんだってば」

アンドレは両手をばたつかせ、必死で言い訳したがもう遅い。


「これでも食らえ」

カエルの神様はアンドレに向かって茶色い煙を吐き出し、彼はそれを思いっきり鼻の穴で吸い込んでしまったのだ。


「ゲホゲホッ。何じゃこりゃ〜、ゲロッ」

突然、アンドレの身体は服をビリビリと破り、みるみる大きくグロテスクに変わっていき、目は両側に飛び出し口は耳まで裂けていく。

気が付けばあっという間にヒキガエル男になっていた。


「ゲゲッ、これはどうしたでゲロ?」

アンドレは驚いた。


「ワシをふみつけた罰じゃ、お前はこれから雨に濡れるとヒキカエル男に変身するのじゃ。この魔法を解く方法はただひと〜つ。お前を真に愛してくれる女性からキスを受けることなのぢゃぁ〜。だがこの事を誰かにちょっとでも他言すると、お前は一生元には戻らないぞ〜ゲロゲロ」

そう言い残してカエルの神様はふっつりと宙に消えていった。


「そんなの困るゲローッ」

アンドレは叫んだ。



だが、このままでは議場の警護どころか、化け物と化した彼は反対にここからつまみ出されてしまう。

最悪の場合は魔物として火あぶりの刑になるかも知れないのだ。


「それだけはごめんだゲローッ」

彼はピョンピョンと跳ねて議場から逃げ出した。




**********




「アンドレ、一体、どこへ行っていたんだ。無断で任務をさぼると本来なら免職沙汰だぞ」

オスカルはその夜、アンドレを司令官室に呼び出し怒りまくった。

ただでさえ休みがなくイライラしている時だった。オスカルのボルテージは上がりまくっていた。


「ちょっ、ちょっち便所に…」

アンドレは本当のことなど言えるはずがなく、苦しい言い訳でその場をしのいだ。



しかし翌日も朝から大雨で、おまけにオスカル率いる衛兵隊はブイエ将軍から議場を閉鎖するように命令され、兵士たちは早朝から議場にかり出されていた。

しかしアンドレは雨が降っているので出ていくわけには行かない。

彼は保健室で体温計を指でこすり、38度5分の熱をむりやりこじつけてずる休みをしていたのだ。

しかし、そう上手くオスカルから逃げおおせることはできない。



「アンドレ、こんなところでさぼっていたのか!」

オスカルは保健室のベッドで隠れるようにしていたアンドレを引っ張り出し、任務に連れ出そうとした。


「さあ、みんなの所へ行けっ」

オスカルは心を鬼にし、兵舎のポーチからアンドレを蹴り飛ばした。

兵士には規律がある。
アンドレだけ、少々熱が出たからと言って、大目に見るわけにはいかないのだ。


「ひぇ〜っ、それだけはご勘弁を」

蹴られてヨロヨロと土砂降りの中へ放り出されたアンドレは、二、三歩ほど歩いたかと思うとたちまち身体に変化が現れ、軍服の背中が盛り上がったかと思うとデビルマン顔負けの状態でビリビリと服を破って変身しはじめた。




「ギャ〜〜!」

さすがのオスカルもこの世のものではない化け物の姿を目の当たりにし、気を失って倒れ込んだ。


「このままではオスカルに嫌われてしまうゲロ。どうにかしなくてはいけないゲロ」

アンドレは弱り切った。

とりあえずオスカルを兵舎の中に引きずって行き、自分は身体が乾くまで便所に立てこもることにした。


だがこのままでは埒があかない。しかしどうしたら良いのだろう。

魔法を解くには、心から自分を愛してくれる女性のキスがいるのだと言う。

オスカルに片思いしていることは間違いないが、オスカルが自分を愛してくれているかどうかは未確認だ。

しかし単純思考の彼は疑うことなく、きっとその女性こそオスカルの事だと信じ、彼女とキスをするチャンスを伺うことにした。




**********




翌日、たまたま屋敷に帰ってきたオスカルとアンドレは食後の時間をのんびりとすごしていた。

オスカルは昨日、アンドレがヒキガエル男になったことは夢だったと割り切っていたので、騒動にはなっていない。


彼女は今、熱いショコラをばあやに運んでもらい、香りを楽しみながら自室で読書をしている。

しかしだからこそ、ゆったりした食後の時間は頼み事にはふさわしい。


アンドレは彼女がくつろいでいる部屋へ行き、単刀直入に用件を切り出した。


「なぁ、オスカル。俺を助けると思ってキスしてくれ」


「ぶーっ!どうして私がお前にキスしなければいけないんだ、バカバカしい。議場の警護も途中でほっぽり出すようなヤツに…何で私が!」

オスカルはびっくりして口に含んだショコラを吹き出し、猛烈に抗議した。


「言ったな〜。そう言うお前はどうなんだ。俺は知っているんだぞ。お前はこの間、奥様の大切なマイセン焼の人形の腕をポキッと折ったくせして、こっそりノリでくっつけて知らんぷりしているだろう」

アンドレも負けていない。


「うっ、何でそれを知っているんだ」

オスカルはうろたえた。


「たまたま通りかかった時に見たんだ。どうだ、黙っていて欲しかったら、おっ、おっ、俺とケッコンしろ〜」

アンドレは我を忘れ、勢いでキスどころか結婚まで迫ってしまった。


「ぐぬぬ、黙って聞いていたら生意気な。お前はニャロメか!?」


「そんな古いツッコミをしていると年がばれるぞ、さあ頼むから俺とキスしてくれ」

アンドレは口をとがらせ、チューの形をして彼女に迫った。


「なにぉう〜!こいっ、勝負だ」

オスカルはついにキレた。



そうして二人は大人げない理由とはいえ、成り行きでとっくみあいの喧嘩になり、屋敷を大騒動に巻き込んだのであった。




**********




数日後、議会は国王を交えて再開された。
またしても雨だった。


宮廷は平民議員を見下し、彼らを雨の中、ずぶぬれになって立たせるという卑劣な手段を取ったため、オスカルは怒りに震えている。


と、彼女がワナワナしながら周囲を見渡すとまたしてもアンドレの姿がない。
ムッとなったオスカルはこの場をアランに任せ、彼を探し始めた。



この時、アンドレはできるだけ雨に当たらないように議場の近くの建物まで来ていたのだが、急に激しい雨になってきたのでその辺の建物の軒下に避難していた。

ちょっとでも外に出るとたちまちヒキガエル男になってしまうのだ。


しかしやむを得ず彼が雨宿りしているところに、さっそくオスカルが険しい顔でやって来た。



「何やってるんだ、アンドレ。さっさと持ち場に着け」


「すまんっ、俺はここから動けないんだ」

彼はもうどうしようもなかった。彼女を怒らすことも嫌だが、自分の変身した姿を見せたくもなかった。

もし理由を話せば、一生この呪いは解けないのだという。八方ふさがりだった。


「四の五の言うな!」

オスカルはアンドレの腕を引っ張り、彼も又、抵抗した。

そしてもみ合っているうちにアンドレは濡れた床で足を滑らせ、壁に額を激しく打ち付けてしまったのだ。

運悪く大量出血し、振り返った彼の顔面は真っ赤になっている。



「ア…アンドレ、すまん。そんなにいやがるのは何か理由があるんじゃないのか。私も冷静さを欠いていた。わけがあるなら言ってくれ」

オスカルはアンドレの怪我に驚いて、かえって落ち着きを取り戻した。

ここ数日、議場の警護で上手くいかないイライラを無意識にアンドレにぶつけていたのだ。


一方、アンドレはオスカルのいたわるような視線に、「やはりオスカルは俺のことを愛しているのだ」と勝手に信じ込んだ。


「顔を出せ、私が拭いてやる」

オスカルは優しい口調でハンカチを取りだし、自分の顔をアンドレの顔に近づけた。



チャーーーーーーンスッ!



アンドレはオスカルの顔が近づいたのと同時に口をチューの字にしながら、そのまま彼女の唇をスポッ!と奪った。

それはとてもロマンチックとはほど遠く、タコが吸い付いたような図であった。



「ぎゃぁ〜!」

オスカルはとんでもない展開に驚き、パンパンパンパンパンパン!とアンドレの顔に三往復ビンタを食らわせ、その衝撃で彼は雨の中に転がり出た。



「わーい、どうだ。呪いは解けたぞ、あっはっはー」

殴られたアンドレはしおれるどころか嬉しそうに立ち上がり、血まみの顔で、尚かつ両方の頬を真っ赤に腫れ上がらせながら雨の中を小躍りしはじめた。


何が何だかわからないオスカルは彼の理解しがたい行動にぼう然としていたのだが、やがて顔をこわばらせ、悲鳴を上げた。

喜んで踊っていたアンドレが急に服だけを残して、突然消えてしまったのだ。



「アンドレ!」

オスカルは叫んで雨の中に駆け出し、アンドレの軍服を掴んだ。

だが当然、中身はからっぽでアンドレは消えていた。
思わず服をパタパタと振ってみたが、小さいアマガエルがポトリと落ちてくるだけだった。



「一体、何が何だかわからない」

彼女はすっかり顔色を失い、ひとまず警護の任務に戻った。

こんな手品を使ったアンドレを、後でこっぴどくやっつけてやろうと思いながら。



そして彼女が去った後、雨の中に小さいアマガエルがぽつんと残った。



「前よりはマシだけど迫力がなくなっちゃったケロ。今度はちっちゃくて緑色でキュートなカエルになったケロ」

千載一遇のチャンスを利用してオスカルにキスしたアンドレだが、実はこの時、オスカルはアンドレを友として好意を持っていたものの、男として「好き」という感情にまで至っていなかった。

呪いは中途半端に解かれただけで、彼は完全な人間に戻りきることは出来なかったのだ。

彼は少なくともヒキガエル男になってしまうことは免れたが、今度は可愛くてちっちゃいアマガエル男になってしまったのだケロ。



「これでオスカルに可愛がってもらって、そのうちきっとチューしてもらうんだケロ」
アンドレは相変わらずめでたい男であった。




おしまいだケロ





2007/1/14/


up2007/2/22/



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