文の一部に18禁のような描写があります。
念のため18才以上の方のみお読み下さい。
(内容は18禁ではありません)

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別荘にて……





 オスカルは時々、一人になる時間を欲しがる。
だが、部下たちが休暇を取る間も無休で働き続ける彼女のことだから、ごくたまの休暇には誰も異を唱えない。


 さてご存じもう一人の主役アンドレは一人、煩悩のうずきに身もだえていた。
一人きりで別荘で静かに過ごすオスカルの姿を思い浮かべただけで、あらぬ想像の衝動が頭から下半身までを貫くのであった。



「オ…オスカル、今度の休暇は一人でノルマンディの別荘へ行くのか?」
「ああ、向こうにはごく簡単だが世話をしてくれる者たちがいる。だからこちらから供は付けないで行くつもりだ」
「……そ、そうなのか…」

アンドレは躊躇した。
本当ならここで自分を供に付け、別荘での熱〜いめくるめく日々を過ごすのが「ベルばら」の常識ではないのか??
だが現実、オスカルはアンドレすら供にしようとしないつもりなのだ。

「俺は薪割り、上手いぜ」
「細かい気配りは俺でなくっちゃあ〜、はっはっはっ…」

「アンドレ、無理しなくていい、おまえはお前の時間を大切にしろ」
オスカルはつれない。
とは言え、どうしても一人になりたいからではなく、自分と同じように無休で働くアンドレにも彼自身の自由時間を持って欲しかったのである。彼女の親切は決してアンドレのためにはならないのだが、得てして物語はそんなもの。


 このままではダメだ!!俺は絶対オスカルにひっついて行って、おいしい目に合わせてもらわないといけないのだ。彼は下半身に固く誓った。
と決まれば話は早い。
彼は着替えや、夜のお楽しみグッズ(トランプ等?)を手早く用意し、風呂敷に詰め込むと背中に縛り付け、いざ出発しようとするオスカルの馬車の後ろにぺったりとへばりついた。



 秋の紅葉が舞い散る並木道を、馬車はすべるようにノルマンディに向けて走った。
まるで黄色い花吹雪が馬車を歓迎しているかのように踊っている。
馬車にカエルのごとく根性でひっついているアンドレもしばし景色を楽しんでいた。



 とその時、少しカーブになっている道の前方に何かが横たわっているのが見えた。
どうやら小動物らしい。
馬車の窓からそれを見たオスカルは馬車を停車させ、助けてやることにした。
「ヨハン、止まってくれ!!」
オスカルの叫び声に御者は手綱を強く引き、馬車は急停止した。

ドスッ!!

何か重い物が馬車の後ろから落ちる音がした。
「荷物が落ちたのかなぁ」
ヨハンが心配そうに振り返った。
荷物の中には別荘で世話をしてくれる者たちへの心づくしの品を入れてある。壊れては困るのだ。オスカルも身を乗り出して馬車の背後を見た。
しかし、何とそこには唐草模様の風呂敷を背に、仰向けに転がっている彼女の従僕の姿があった。


「ア、アンドレ?!!」
「いっててぇー。いょお〜、オスカル、偶然だなぁ〜」
アンドレは右手を軽くあげ、苦しい言い訳をした。

「お前、ここで何をしていたんだ?!」
オスカルは不自然な成り行きに殺気立っていた。
と、そのとき御者のヨハンはつぶやいた。
「あれを助けるんじゃなかったんですか」
「あ、そうだった…」
事の発端の小動物は、つまらぬ言い争いの間にもますます弱っているはずだ。


「よし、オスカル、ここは俺に任せろ」
アンドレはその場をごまかすのにはもってこいの自分の出番に喜々として走っていった。
 
「…ぽこぽ〜ん」
小動物はアンドレを見るなり、小さくあえぎ救いを求めた。
「よしよし、安心しな。俺が手当してやろう、それにお前はどこからきたんだ?仲間のところに返してやるよ」
アンドレは優しく狸を励まし、手際よく足の怪我に薬を塗りつけ包帯を巻いてやった。
「ぽここぉ〜」
狸はどうやら礼を言っているらしい。

「そうだな、アンドレ。私もそうしてやるのがいいと思うぞ。私はここで待っているからこのたぬたぬを森に返してきてやってくれ」
心配して駆け寄ってきたオスカルも同意した。だが、狸の名前がどうして「たぬたぬ」なのかは彼女にしかわからぬ謎である。



「俺はオスカルがこーんなに好きなのに、あいつったら全然わかっちゃいないんだぜ、はぁー、男はつらいよ」
アンドレは狸を抱いて、森の草をかき分け進みながら狸に話しかけた。
「俺がこんなに悶々としているのにあいつにはその気がないなんて虚しすぎる」
「ぽこっ!!」

狸もそれなりに理解してくれているらしく、アンドレもついうっかり本音が出てしまった。
「はぁー、やりてぇ〜!」
「ぽこぉー、ぽこぽこ〜!」


 さて、狸の里は深い森の中にあり、アンドレはたぬたぬを無事、彼の仲間に渡し、お礼の宴も丁重に辞退し、足取りも軽くオスカルが待つ並木道へと急いだ。

さすがにここまで遠くまで来たら、短気な彼女も屋敷へは帰れとは言わないだろうと確信していたし、やはりいいことをした後は気分も良い。
行くときはあんなに歩きにくいけもの道も、不思議と帰りはスムーズに戻ることができそうだった。


「おそかったな、アンドレ。ずっと待っていたんだ…」
オスカルは心配顔で迎えてくれた。
「ヨハンは先に歩いて行った。ここで野宿するわけにもいかないからな、どこか泊めてくれる宿を探しに行ったのだ」

 主人のオスカルを一人残して……と、アンドレは不注意な御者に一瞬腹を立てたが、この強いオスカルを一人残しても罪にはならないだろうし、かえって二人きりになれるとはありがたいっ。彼の頭の上で天使たちが乱舞した。


「アンドレ、私はずいぶん冷たい女だった」
オスカルは神妙に言った。
「えっ?」
意外な展開にアンドレの心と、余計なことながら下半身の血流も騒いだ。
「お前が嫌いではないのだ、わかってくれ」
オスカルはそっとアンドレの手を握り、潤んだ瞳で彼を見た。
「ここにいては風邪を引く、馬車の中に入ろう」
アンドレはオスカルをさりげなくリードし、そういう場を作り出そうと全神経を集中させた。


 二人きりの馬車は少し気まずい空気に包まれていた。
「少し…寒いな…」
オスカルはポツッと言う。
「俺のコートの中に入れよ」
「…うん」
オスカルは素直にうなづいた。


「今度は暑くなってきた…」
しばらくしてオスカルは顔を上気させて言った。

「……」
気持ちでは思っていても、じゃあ服を脱げよとは言い出せないアンドレであった。
が、しかし……。

「脱ぐぞ、アンドレ」
いきなりオスカルはブラウスを、そしてキュロットを、次々と脱いでいった。
おっ、おい?!こっ、これでは襲ってくれと言わぬばかりではないか。
期待通り、いや、想像を絶するほど激しく運ぶ筋書きに、アンドレの理性は銀河系の遙か彼方のマゼラン星雲のイスカンダルまでぶっ飛んだ。

「さあ、これでどうだ!アンドレ」
オスカルは四つん這いになり、キュートなお尻をプリッとアンドレの前に突き出した。


「うぉぉぉおおおぉぉぉぉーっ!!!」
もうアンドレに理性は残っていなかった。
焦ったあまり、脱ぎかけたキュロットに足を取られて馬車の窓に頭をぶつけながら、彼はオスカルに突進していった。

 もはや理性がぶっ飛んだアンドレに、冷静に物事を観察しろと言うのは無理だろうが、この時、オスカルの鼻の横に太いひげが4本、ぴーんと生えているのは見えようはずもない。



「おそうございますなぁ、オスカル様」
「あいつ、どこで油売ってるんだ!!」
日はどっぷりと暮れかけている。アンドレが狸を森に返しに行ってからかなりの時間が過ぎていた。
「狸にバカされていい加減な夢を見せられているんじゃないですか?」
ヨハンもあきらめ顔で言う。



「むっ、何かおかしい」
いざっ!!という間際、かろうじて残っていた理性を働かせ、アンドレは事の異常さに気がついた。
あのオスカルがいきなり馬車の中で裸になるとは考えにくい。いや、どう考えても不自然すぎる。
彼はいやな予感を感じつつ、四つん這いになっているオスカルの頭をつかみ、そっとこちらへ向かせた。

どっひゃぁぁぁぁーん!!

その顔は一応オスカルの顔ながら、黒い鼻と、鼻からピンピンと延びた4本のひげが生えていた。

「ぽこ…ぽぉ…ん…」
オスカル狸は気まずそうに言った。

「化かされたぁー!!」
一瞬で我に返ったアンドレは自分の服をあわててかき集め、局部を隠しながら一目散に逃げ出した。そして本物の馬車があった方向へ見当を付け、何度も足をもつらせながら走りに走った。



 日はすでに落ち、あたりは静かに闇が覆いつつあった。
幸い、前方にはほのかに馬車の明かりがちらちらと点っている。彼はその明かりを目指した。

「オスカルーっ」

「何やってたんだ、お前。それに裸じゃないか」
待ちくたびれたオスカルは馬車から飛び出してきた。

「うむ、実は狸を送った帰りに美女に誘惑されかけたんだが…」
アンドレは今までのいきさつをかいつまんで説明した。
が、肝心な所を省いたためその説明はとても短いものになった。

「ははは、狸も自分たちなりにお前に何か恩返ししたかったんだろう」
オスカルは涙を流して笑いこけた。
「まぁいい、よーし、ヨハン。急いで別荘に行こう」
オスカルは御者を急がせ、アンドレを馬車に押し込んだ。



 ガタゴト…しばし馬車の振動に身を任せ、二人は無言で乗り合わせていた。
「その美女って、私よりきれいだったのか」
「うっ、あ、いや、そんなことは…」
アンドレは返事に困った。

よもやオスカル狸に化かされたとは言いにくい。
「ふふふっ、それじゃあ私が誰よりも美しいことを、身をもって証明してやろう」
オスカルはいたずらっぽく笑った。
アンドレは顔を上げ、オスカルの顔を見た。だがその顔のどこにもひげは生えていなかった。



 馬車は星空が輝く中、程なくノルマンディの別荘に到着し、二人は出迎えの者たちに暖かく歓迎された。
「よろしく頼む」と、オスカル。

「おっ俺もおへわになりまふ……」
アンドレは今から始まる密事に期待のあまり緊張し、声もひっくり返り、うわずってしまった。
彼は屋敷を出たときから肌身離さず背負っていた「夜のお楽しみグッズ」が入った唐草模様の風呂敷包みを握りしめ、わなわなと武者震いした。


 だが、やはりもっと冷静に考えるべきであった。
彼は知らない。出迎えの者のみならず、オスカルにも御者のヨハンにも茶色いふさふさのしっぽが生えていることを……。
しかし、そのしっぽは暗闇では見えようはずもない。



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「やっぱし、狸に化かされてるんじゃないっすか」
「あいつー、帰ってきたらただじゃおかないからなぁ!!」
そのころ、本物のオスカルとヨハンは、いつまでたっても帰ってこぬアンドレに苛立ちながら、たき火を焚いて野宿をしていたのであった。





おわり・2000・10・14
編集・2004.12.12

up2004/12/

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